YWCAの風

再掲:戸田照枝さんの被爆証言

1945年8月6日、13歳で被爆した故・戸田照枝さん(広島YWCA会員)が、晩年「ひろしまを考える旅」で、若い世代に向けて語った被爆証言です。
いま改めて、私たちに託されている願いに、耳を傾けてみませんか?

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隠れるように生きてきた人生でした。被爆体験は生涯思い出したくない、話したくないと思っていました。

 77年前に7人きょうだいの末子として生まれました。その前年に15年戦争が始まったのです。自宅のある宇品には港があり、全国から集められた兵士たちが毎日のように戦地へと送られていく、加害の街でもありました。食べ物も薬も、着るものもない、乏しい時代でした。父と2人の兄は続いて病気で亡くなり、終戦までに2人の兄が戦死し、残った兄も特攻隊に送られ、そのような中で8月6日を迎えました。

私は13歳でした。動員先の集合場所で、級友とおしゃべりしながら全員がそろうのを待っていました。読書や合唱をする人もいました。友人の大谷さんが前に立って私の髪を編んでくれていました。誰かが「B29だ」と叫んだので見上げると、ピカッと辺り一面が光りました。フラッシュを何百、何千も一度にたいたようでした。同時に耳をつんざくような爆発音がして、私は鉄階段と建物の下敷きになって気を失っていたようです。しばらくすると「助けてお母さん」「熱いよ」「耳が取れたよ」と泣き叫ぶ声。私は必死に這い出ました。作業に来ていた男子中学生が50人くらい、火だるまとなって体中がぼうぼうと燃えて逃げ惑っていました。

 大谷さんを探すと、大の字になって白目をむいて倒れていました。級友たちは生き埋めになり、うめき声を立てて。どうしよう、どうしよう、気が付いたら辺りは火の海です。燃え盛る火の中をくぐり抜けました。通りがかった兵士に宇品の様子を聞くと「帰るところなんかありゃせん。全部火の海だ。女は裸で逃げよる」と言いました。泣きながら避難者の列に加わりました。中学1年くらいの女学生たちと女の先生がいました。先生はモンペのゴムひもだけが残って身体の前後もわからない状態でした。裸ですから、避難者の列が通るたびに先生は木の陰に引っ込まれたり、また出られたり。そのたびに生徒も一緒に付いてまわり、もう見る方も辛かった。それから私は、皮膚がワカメのように垂れ下がり赤黒く何倍も膨れ上がった人たちの中で、歩いている人の足にすがりつくように「水をください」と最後の声を振り絞って叫ぶ人の中で、多くの人がばたばたと倒れて亡くなられていかれたその上をまたいで、郊外のわが家へと避難したわけです。

 毎日あちこちで遺体が焼ける匂いがしました。異様な匂いでした。私も、建物疎開の作業中に死んだ友だちを、壊れたタンスの引き出しに入れて、焼きました。川のほとりはもう、そういう焼き場になっていました。

 原爆投下の前日は久しぶりの休みで、友だち5人と川遊びをしたんです。いつB29が襲ってくるかという状態で、命がけで遊びました。もういいわ、楽しい思いを一時、一回でもしようって感じでね。きれいな深い川でした。キャッキャッと笑いながら楽しんで泳いだ、その川が死骸でいっぱい、川面が見えないほどでした。 あの日から64年の月日が流れました。自分だけが逃げて帰ってきたことが今も心に突き刺さって離れません。私は被爆したのに腕が折れただけで、ほとんど無傷でした。逃げる途中で白いブラウスが真っ赤になっていることに気が付きました。級友たちの返り血だと思います。履いていた靴もなくなり、火の海の中どうしようもなく、他人の靴を履いて逃げたんです。友だちのおかげで避難ができてね。それはもうすごい負い目っていうのかね。どう表現したらいいのかわかりませんけれども……。私だけが、あまりにも長く生きて、申し訳ないと思いながら生きています。皆さんの前に出るのは気が引けましたが、戦争の面影がだんだんとなくなり、残された者が今語らなければ、あのとき亡くなった人たちの思いをどうにかして伝えなければ、私は死ぬことができないと思っています。あの日のことを繰り返してはなりません。どうぞ、若い皆さんにこれからの平和な時代をしっかり築いていただきたい。守っていただきたい。そのためには争いや競争ではなく、和解の中で、お互いの立場を認め合いながら、本当に平和な世の中をつくっていただきたいと願っています。(2009年)

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戸田照枝さんの被爆証言は、日本YWCA機関紙2019年8月号に掲載しています。

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